小説置き場弐

夢心

1話:変な王子と出会った二人

「綾子さん、何処ですか!?」
 1人の女性――まだ童顔の残っている女性が、寺院の中を走り
まわっている。
「そこ・・・ですね」
 女性は振り返りもせず、手に持っていた簪(かんざし)を投げた。
「ひゃうっ!!」
 そこにいたもう1人の女性――綾子は、顔の真横に簪が突き刺さり、
顔をひきつらせた。
「ゆ・・・雪子さぁん、何も投げなくても・・・」
「花瓶、割りましたね?」
「・・・え?」
「割りましたね?」
 今度はきちんと振り返り、雪子は綾子に近づいた。
「割った~というか、あれは鏡ちゃんが悪いんだよーっっ!鏡ちゃんが
 買っといた氷菓子食べちゃうからつい、突き飛ばしちゃって~」
「『大妖怪』の娘であるあなたが、そんなことぐらいで怒って
 どうしますか?」
 綾子はむすっとした。
「それだったら鏡ちゃんもそうじゃん~っ。はっきり言って鏡ちゃんが悪い!」
 すると、綾子は後ろから蹴られた。
「なぁーーーにっ、俺のせいにしようとしてんだよっ」
「あぁっ!鏡ちゃんーっっなんで私置いて逃げちゃうのーっっ!?」
 雪子はふぅと溜め息をつき、二人を見た。
「いいですか?花瓶というのは、つくられるまでにも大変な技術がいるん
 ですよ。さしてあった花だって、なんのための花ですか?」

「どーせ花瓶つくってるのなんて、お金目当てでしょ?」
「じゃあ、花なんてつまなきゃいいじゃないか」

 二人の言い訳は、見事に決まった。雪子は呆れて、少し黙った。・・・そして。
「綾子さん、鏡君。唐突に言うけど・・・あなたたちには、今日から
 旅に出てもらいます」
「はあ!?」
「なんでーっ!?」
 予想通り反論した二人に、雪子は続ける。
「私の兄――一国の王子をやっているのですが、城の備品を壊して
 外にほっぽり出されたようです。父の言い分によれば、ある国の宝、
 錫杖をとってこい、ということで・・・」
「じゃあ、1人で行かせたらいいんじゃないの?」
 雪子はゆるゆると、横に首を振った。
「あの人・・・すっごく怖がりなんですよ・・・」
 綾子と鏡はでろんと肩を落とした。綾子は口を開いた。
「もしかして、お金持ちかな?捕まえて身包みはがそうかしら?」
「お前、怖がられるぞ?」
 正確な鏡の突っ込みに、綾子はうふふと笑った。
「いーのいーのっ。どうせ、変な棒とってかえるだけの間でしょー?」
「棒、というか杖だけどな」
 そんなこんなで、ピクニック気分になっている綾子であった。

 そして、当のご本人はというと。
「ここ、一体何処だよ・・・あんま外でねぇし、記憶力なんてもとから
 ないからなぁ~・・・。むっなしぃぃぃぃ~・・・っっ!」
 はやくも迷子になっているようだった。

「遅いね、雪子さんの兄とやら」
「遅いな。対人恐怖症は」
 ひまになって、近くの草原で空をながめだす二人。寺院にいても邪魔に
なるだけであったし、散歩がてら来てみていた。
「お、あれそうなんじゃないか?」
「え~・・・あの人?」
「そうだそうだ。ちょっと行ってくるわ」
 鏡はとりあえず走り出した。ぽつーん・・・と、綾子が1人座っている。
「・・・ここは、昔――焼いたんだよね・・・もう、こんなに綺麗に
 なって・・・」
 綾子は辺りを見回すと、にこりと微笑んだ。
「あん時のことはすっぱり忘れよ~っと。さてと・・・どうなったかな?」
 すっと立ち上がると、鏡の後を居って、綾子は走り去った。

続く


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